5/6 痙攣性不全麻痺Bovine spastic paresis


起立難の牛をどうにかしてほしいと診療依頼があった。

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Fig1. 痙攣性不全麻痺の成牛(左)と正常な成牛(右)

この状態は「痺れっぽ」とか呼称されているが病名は痙攣性不全麻痺Spastic paresisという。今までは治療の対象外の症例と諦めていたが、少し調べることにした。まずは例のごとくVeterinary manualから。

Spastic Paresis (Elso heel) in Cattle
“Palliative surgical treatment may be attempted, although ethical issues should be considered when breeding stock is involved.”
繁殖には使用しないことを前提に、一時的には外科処置の対象とされている。この病気は遺伝性疾患が疑われているらしい。


遺伝性疾患なら、OMIA(Online Mendelian Inheritance in Animals)を調べるのが鉄板だ。早速原因が特定されているのか調べてみた。

http://omia.angis.org.au/OMIA000928/9913/
遺伝様式、原因遺伝子は未だに特定されていない。

続いて、そこに掲載されている論文を調べてみた。


De Vlamynck C, Pille F, Vlaminck L

Vet. J. 2014 Nov;202(2):229-35

PMID: 25201252

Abstract

The aetiology, pathogenesis, diagnosis and treatment of bovine spastic paresis of the gastrocnemius muscle (BSP-G) have been investigated for several decades, but much remains to be elucidated. In some breeds, the proportion of atypical presentations of BSP involving the quadriceps muscle (BSP-Q) and/or several other muscles (mixed presentation, BSP-M) appears to be increasing. Differentiation between BSP-G, -Q and -M is challenging and existing surgical treatments are usually ineffective in cattle affected by one of the atypical forms of the disease. This paper reviews the current knowledge on BSP and addresses several areas where understanding of the disease is incomplete.

痙攣性不全麻痺の原因は主に腓腹筋が引き起こす痙攣で、後肢に好発する。子牛に稀に見られるほか、品種に関わらず3-7歳の牛で発生している(1%以下)。

外科手術は腓腹筋に分布する脛骨神経の切断術または腓腹筋の腱切断術が行われている。腱切断術では飛節の沈下が発生する。


日本でも挑戦している獣医師達がいるらしい。最近の文献には以下があった。

三浦 萌ら、黒毛和種子牛における痙攣性不全麻痺の1例、日本家畜臨床学会誌, 32(1), 8-11, 2009
鷲谷 裕昭ら、痙攣性不全麻痺発症後経過の長い初産牛に対して脛骨神経切除術を行った2症例、家畜診療, 59(6), 367-371, 2012

さて、今回の症例はどうするべきかな。畜主と相談してみよう。

「5/6 痙攣性不全麻痺Bovine spastic paresis」への5件のフィードバック

  1. 痙攣性不全麻痺ですか!
    今まで2頭やったことがあります。
    掲載されている文献の鷲谷先生に協力していただきました。

    1頭は生後1か月の子牛、1頭は経産乳用牛でした。
    2頭とも治癒し1年以上は生存しているのを確認しています。

    手術場所(手術室等)、不動化、術後管理がポイントに感じています。

  2. 痙攣性不全麻痺は過去に2頭挑戦しました。
    1頭は生後1か月のホル子牛、1頭は経産乳牛でした。
    2頭とも治癒し、1年以上は生存を確認しています。

    手術する場所、不動化、術後管理が今後の課題と感じています。
    初めて手術した際には文献に掲載されている鷲谷先生に協力していただきました。

    1. >ankoさん

      返信が遅くなってしまいました。2頭の手術を経験したことが有り、両頭とも治癒したとのこと、とても素晴らしいです!千葉ではおそらく手術を行っている獣医師はいないのではないかと思います。手術は部分的神経切除術を行ったのでしょうか?こちらでは、神経刺激装置が手元にないため、やるとしたら腱の切除術しか手がないかと考えています。こちらはナックル整復をする術は手に入れたので、手術の弊害でナックルが出現しても整復できるのではないかと^^;。

      なお、写真の牛は畜主の判断で屠畜となりました。手術はまたの機会となりました。

  3. 2頭うまくいったのはラッキーでした。
    一緒に実施した先生が他の個体でもチャレンジしたらしいですが、やはり運動制限が大事なようで、術後放したら翌日腱断裂を起こして廃用になったとのことでした。よその組合の話では両側一度にやっても筋、腱断裂のリスクが高いようです。
    手術は部分的神経切除術です。1頭目は神経刺激装置を使用しましたが2回目は目視のみで実施しています。
    チャンスがあれば是非!
    不思議なのは切った直後は歩様、姿勢になんの変化もないことです。なぜか翌日以降に改善されています。

    1. >ankoさん

      >不思議なのは切った直後は歩様、姿勢になんの変化もないことです。なぜか翌日以降に改善されています。
      これよく分かります。僕たちはナックル整復をよく実施するのですが、副木を除去した当日はナックルのままなのに、翌日に驚くほど改善していることが結構多いです。とても不思議ですね!!以下は過去の記事のリンクです。
      http://www.daimode.info/home/archives/4169/

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