2018/11/19 乳牛における乳房炎が流産に及ぼすに影響とその被害額についての論文を読んでみた


乳牛における乳房炎が流産に及ぼすに影響とその被害額についての論文(10.3168/jds.2018-14619)を読んでみた。

  • 【背景】大腸菌やStreptococcus uberisによる臨床型乳房炎では血中のPGF2αや炎症性サイトカインが放出されることにより、黄体退行が促され、その結果流産が引き起こされることが分かっている。これまで、臨床型乳房炎による経済的損失は平均155~179ドル/caseと推定されているが、流産の可能性を損失として考慮されていない。
  • 【目的】交配前や妊娠中に発生した臨床型乳房炎、非臨床型乳房炎と流産の関係を調べること。また、流産リスクを考慮して、妊娠中の臨床型乳房炎の被害額を推定すること。
  • 【材料と方法】
    約500頭を飼養する大学の酪農場における、2006年から2013年で、空胎日数175日未満の初産牛687頭のデータを使用。プレシンクとオブシンクのプログラム(TAI)を併用し、TAI後33日で受胎が確認されたものをデータとして使用。夏期にはETを実施。流産はTAI後47, 75日の直腸検査で評価した。

    臨床型乳房炎の定義は、明確な乳汁の異常があり治療を行ったもの。非臨床型乳房炎の定義は体細胞スコアが4.5以上だったもの。

    牛は以下の3群に分け、それを交配前1~42日と妊娠期間中とで評価。①乳房炎に罹患しなかった牛、②非臨床型乳房炎に罹患した牛、③臨床型乳房炎に罹患した牛。

  • 【結果】流産率は12% (119/991)で、臨床型乳房炎発生率は23% (232/991)だった。

    多変量解析で、交配前の乳房炎と流産に関連は認められなかった。一方、妊娠期間中の乳房炎と流産には関連が認められ、そのモデルにおけるオッズ比は臨床型乳房炎が2.21 (P = 0.04)、非臨床型乳房炎が0.65 ( P = 0.45)だった(表2)。そのモデルには他に交配方法(ETにおけるオッズ比は2.04, P = 0.02)と交配前の跛行(Yesにおけるオッズ比は4.13, P = 0.02)の説明変数が選択された。

    妊娠75日までにおける流産の経済的損失は$148.99 / caseだった(表3)。

  • 【結論】妊娠期間中の臨床型乳房炎は初産牛の流産のリスクを上げ、経済損失につながる。
  • 【感想】単変量→多変量→その結果を用いた経済評価、という流れでとってもシンプルで読みやすい論文。結果は臨床の感覚と一致していて、当たり前のように思えるがそれをデータでしっかりと示されている。我々の現場のデータでもこのようなデータ解析は可能なので、目的を持ってしっかりと取り組めばJDSへの掲載が可能だ!
  • Bibliography

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