2020/5/10 COVID-19と家畜の論文を読んでみた11


2020/5/8にMorbidity and Mortality Weekly Report (MMWR)へ掲載された食肉・食鳥処理場におけるCOVID-19感染についての報告書”COVID-19 Among Workers in Meat and Poultry Processing Facilities – 19 States, April 2020.”(10.15585/mmwr.mm6918e3)を読んでみた。


・食肉・食鳥処理場は必須なインフラだけど、人が密集しやすい職場環境である。
・アメリカの19州の食肉・食鳥処理場115施設におけるCOVID-19感染状況を調べたところ、3%の職員に感染が見られた。
・物理的な距離、手の衛生、清掃と除染などの改善と職員が理解できる多言語での教育手段を提供することが食肉・食鳥処理場におけるCOVID-19流行を低減させるのに重要。


「家畜からの職員へのCOVID-19があった」とか「畜産物にSARS-CoV-2が付着していた」とか、アンチ畜産の活動家が喜びそうな内容は一切書かれていない点は強調しておきたい。アメリカの食肉・食鳥処理場で働く職員は様々なバックグラウンドを持つ人々が集まっていることが想像できる。この辺りは世界屠畜紀行に詳しい。

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2020/5/9 COVID-19と家畜の論文を読んでみた⑩


2020/4/10に再投稿、4/30にアクセプトされたTravel Medicine and Infectious Diseaseへ掲載されたCOVID-19のペットへの感染についてのLetters? “Potential infectious risk from the pets carrying SARS-CoV-2”(10.1016/j.tmaid.2020.101737)を読んでみた。アクセプトまでに時間がかかったため、鮮度がないので、大事だと思った点のみ抜粋します。


・(SARS-CoV-2が宿主へ侵入するきっかけとなる)ACE2は犬と猫の腎臓と心筋にも存在する。
・猫の肺組織は(人の)ACE2と85%のアミノ酸配列の相同性がある。→人-猫間で感染するかもしれない。
・猫から人へCOVID-19へ伝播するのを防ぐために、①ペットをハイリスクな場所へ連れていかいない、②もし感染者と診断された場合には、感染していないという(ペットの)検査をする、③COVID-19感染から復活していたら、再感染のリスクを低減するためにペットの検疫をすべきだ。


COVID-19のような緊急事態の場合、論文の鮮度はとても大事な要素だ。ペットからの感染を強く危惧する内容であったが、掲載までの20日の間に、猫へのCOVID-19感染は証明されてしまった。

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2020/5/6 COVID-19と家畜の論文を読んでみた⑨


2020/4/13にOne Healthへ掲載されたCOVID-19のペットへの感染についての編集部コメント”The risk of SARS-CoV-2 transmission to pets and other wild and domestic animals strongly mandates a one-health strategy to control the COVID-19 pandemic”(10.1016/j.onehlt.2020.100133)を読んでみた。以下、大事だと思った点を抜粋します。


・SARS-CoV-2のS1タンパクとreceptor binding domain (RBD)が共同して、ウイルスが宿主の細胞へ接着する。
・構造上および生化学的性質から、SARS-CoV-2のRBDは人のACE2受容体だけでなく、ペット(イヌ、ネコ、フェレット)や家畜(ウシ、ヒツジ、ウマ)のACE2受容体にも親和性がありそうだ(10.1016/j.molmed.2020.02.008)
・コロナウイルスはゲノムサイズが大きく、RNAウイルスなので変異しやすく、他のコロナウイルス間で遺伝的組換えも起きるので、SARS-CoV-2も今後変化の可能性がある。


新型コロナウイルスSARS-CoV-2の変化の方向性によっては、ペットに親和性が高いものへと変化していく可能性を危惧する内容であった。それにしても参考文献(10.1016/j.molmed.2020.02.008)の人のACE2受容体と家畜のものへの類似性は恐ろしい内容だ。19のアミノ酸の内16が同一のネコや、19のアミノ酸の内11が同一のフェレットにはすでに感染が確認されている。参考文献(10.1016/j.molmed.2020.02.008)の表1にある種のうち、マウス、ハリネズミ、ニワトリ以外の種にはSARS-CoV-2感染の可能性があるということかもしれない。

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2020/4/30 COVID-19と家畜の論文を読んでみた⑧


2020/4/9にJournal of Travel Medicineへ掲載されたCOVID-19のペットへの感染についての論文(10.1093/jtm/taaa046)を読んでみた。以下に要点を抜粋します。


・流行の主体はヒト-ヒト間の感染であるが、3/28時点で飼い犬へのCOVID-19感染が少数報告されたことから、ペットからヒトへの感染の危惧により武漢では多くのペットが放棄されている。
・2003年に流行したSARSの時もペットへ感染していたが、ペットからヒトへの感染は証明されていない。
・現在のところ、COVID-19のペットからヒトへの感染についての証拠はなく、動物福祉の観点からも、ペットの遺棄は正当化できない。


区分が書いてなかったけど、論文というよりはLettersかな。4/30までの知見で言うと、街を動き回る猫についてはCOVID-19の感染リスクを上げるだろうと予想できるので、安易なペットの放棄は許されない行為だと思う。

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2020/4/30 COVID-19と家畜の論文を読んでみた⑦


2020/4/28にTransboundary and Emerging Diseasesへ掲載されたSARS-CoV-2の中間宿主についての短報(10.1111/tbed.13577)に対するコメント”Cats under the shadow of the SARS‐CoV‐2 pandemic”(10.1111/tbed.13599)を読んでみた。以下に要点を抜粋します。


・猫血清におけるSARS-CoV-2の調査は、公開されている論文((10.1126/science.abb7015)(10.1111/tbed.13577)、他のプレプリントも含む)によって差異が大きい。
・まず、SARS-CoV-2が流行した状況下では、どこで採材したかによってその差が出ているのかもしれない。(その短報(10.1111/tbed.13577)にはどこで採材したかが書かれていない。)
・次に、現在のところ、ELISAのキットは2つの研究チームの報告があるから、その違いが出ているのかもしれない。
・最後に、採材時の重要な情報(年齢や臨床症状)が論文に書かれていない。


読んでいて、本当にそうだよねって思った。採材場所やどのような動物から採取したものかぐらい書いてもらわなくちゃ評価できない。このようなパンデミック下でなければ、査読時にかなりの指摘が入っていただろうなぁ。

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