2021/1/8【WANTED】生殖器奇形牛の血液


投稿がだいぶ間を空いてしまいましたが、本年もどうぞよろしくお願いします。

早速ですが、研究への協力依頼があります。

現在、JRA畜産振興事業において、乳牛の生殖器奇形の原因遺伝子の特定に取り組んでいます(下記リンク55、生殖器奇形原因遺伝子保因牛の鑑別と淘汰技術開発事)。
https://www.jra.go.jp/company/social/livestock/about/pdf/chi_r02.pdf

対象とする生殖器奇形は、重複子宮、二重頸管、重複外子宮口、肉柱といった中腎傍管(ミュラー管)融合不全と、単角子宮(2型ホワイトヘイファー病)です。詳しくは、添付した解説記事をご覧いただけると幸いです(家畜診療誌の講座)。なお、外尿道口付近に膜を有する腟弁は調査対象外です。

つきましては、腟鏡で肉眼的に診断した重複子宮、二重頸管、重複外子宮口、肉柱といった中腎傍管(ミュラー管)融合不全を有した牛、直腸検査や超音波画像診断装置で診断した単角子宮(2型ホワイトヘイファー病)を有した牛を知っている方は、原因遺伝子特定のための採血にぜひ協力いただけないでしょうか?特定に必要なSNIP検査では、EDTA採血管を使用した最低2mLの量の採血が不可欠です。牛であれば品種は問いません。

もし協力いただける場合は、採血管に個体識別番号を必ず記載し、2021年の2月末までに以下の住所へ送付していただけないでしょうか?冷凍便の着払いで大丈夫です。送り状の品名の欄には「JRA事業」と書き添えていただけると助かります。
**********
〒113-8657
東京都文京区弥生1−1−1
東京大学 獣医繁殖育種学研究室
松田 二子
Tel: 03-5841-5381
**********
また、どのような奇形を有していたかのメモ書きと送付者の連絡先も同封ください。奇形の情報については石山にメールでご連絡いただいても構いません(daimode@gmail.com)。

お手数をおかけしますが調査にご協力いただけると嬉しいです。もし質問や、採血道具が必要なようでしたら私までご連絡ください。どうぞよろしくお願いいたします。

2019/6/12 大哺乳類展2と重複子宮


行ってきました大哺乳類展2!主に偶蹄類の比較に主眼を置いて観察。ウシに近縁のガウル(Bos gaurus)の剥製を見れて良かった!

あとは、生き残り戦略の紹介として、結構ナイーブな生殖器の話にも触れていた。もう少し深掘りして欲しかったけど、一般の人向けとしては淡々とした展示で、標本の比較もしっかりできる。ウサギの重複子宮の実物は中々見れないので一見の価値あり!!


やはり牛の重複子宮とは大きく異なるようだ。

2018/12/13 乳牛の尿腟への対処法として人工授精前のオゾン洗浄の効果を検討した論文を読んでみた


尿腟の牛の受胎率があまり良くないっていうのは現場の感覚として持っている人は多い。しかし、論文でそれが証明されだしたのは結構最近だったりする。腟検査も嫌厭されがちなので、研究している人も少なく論文が少ない。さらに、その対処法となると手術法の検討がほとんど。前から気になっていた、牛の尿腟への対処法として人工授精前のオゾン洗浄の効果を検討した論文(10.1111/j.1439-0531.2011.01857.x)を読んでみた。


  • 【背景】
    尿腟は乳牛の受胎性を大きく下げる要因担っている。これまでに対処法は手術が報告されているが、経済的でなく、欠点も多い。
  • 【目的】
    実践的で、侵襲性が少ない尿腟の対処法を模索すること。
  • 【材料と方法】
    軽度、中度、重度の尿腟と診断した乳牛1219頭を治療法によって3群に分けた。生理食塩水による子宮と腟洗浄(group A, n = 400)、streptomycinの抗生物質による子宮と腟洗浄(group B, n = 400)、そして、オゾン水による子宮と腟洗浄(group C, n = 419)。処置は尿を除去した後に行い、処置後は排卵剤を投与してAIを実施した。
  • 【結果】
    オゾン水を使用したGroup Cが最も良い成績だった(平均受精回数、空胎日数、淘汰率)。
    The ozone treat- ment was found to be the most effective treatment modality, resulting in the shortest period of days open (95, 89 and 79 days in groups A, B and C, respectively; p < 0.05), the fewest number of inseminations until pregnancy (2.38, 1.84 and 1.63 in groups A, B and C, respectively; p < 0.05) and the smallest number of culled cows (20, 23 and 12 in groups A, B and C, respectively; p < 0.05)
  • 【結論】
    オゾン水による洗浄は尿腟の乳牛の繁殖性を改善する有効な治療法だ。

  • 尿腟の悪影響は、子宮内膜炎と精子への影響が分かっているけど、子宮内膜炎の影響のほうが強そう。発情期に尿の逆流がきっとあるのだろうなぁ。難しいのは、洗うだけでは不十分っぽいところ。オゾン水には迅速な抗菌作用に加え、局所免疫も刺激するらしいのでそこが良かったのかもと触れている。

    でも手法を見ているとオゾン水洗浄もそれなりの労力がかかる。手術での根治を目指すか、悩ましいような気もした。

    ただ単にAI時に尿へシース管が触れなければ良いかなぁっていう考えでは効果が薄いことはよくよく分かった。

    Bibliography

    2018/12/2 胎児の中手骨・中足骨の太さがホルスタイン種乳用牛の難産を予測する指標になるかを検討した論文を読んでみた


    胎児の中手骨・中足骨の太さがホルスタイン種乳用牛の難産を予測する指標になるかを検討した論文(10.3168/jds.2018-14658)を読んでみた。

  • 【背景】
    未経産牛の約5割、経産牛の約3割が難産だったという報告がある。また、難産の一般的な原因は在胎期間と、胎児と骨盤腔の不均衡である。そして、胎児と骨盤腔の不均衡の2大要因は子牛の体重と母牛の骨盤腔の大きさである。
  • 【目的】
    ホルスタイン種乳用牛の妊娠末期における胎児の中手骨・中足骨の太さが出生時体重と難産を予測できるかを検討する
  • 【材料と方法】
    妊娠期間265-282日の母牛128頭に経直腸超音波検査を実施し、胎児の中手骨・中足骨の太さを測定(図1, 2)。

    分娩のスコア化は以下に従った。スコア1(自然分娩)は無介助、または、一人でのわずかな介助分娩。スコア2(lightな難産)は足胞の出現から2時間経過、または、一人での機械を使用しない中程度の牽引。スコア3(mildな難産)は2人での機械を使用しないかなりの牽引。スコア4(severeな難産)は3人でのかなりの牽引、または機械を使用した牽引。スコア5は帝王切開、切胎。

    子牛の体重は出生直後に測定した。

    母牛と子牛の足の太さを考慮するために、MCTI(母牛体重kg / 中手骨・中足骨の厚さcm)という新概念を用いて検討した。

  • 【結果】
    ①93.3% (104/128)の子牛を測定できた。104頭のうち、単子は93.3%、双子は6.7%であった。単子の分娩の44.3%が難産(スコア2以上)だった。単子の分娩の92%が頭位であった。

    ②難産発生を目的変数としたロジスティック回帰分析では、MCTIを説明変数としたモデルが最適であった。そのモデルにおけるオッズ比は2.07 (CI=0.002~11.104)であった(表1)。

    ③中手骨・中足骨の太さと出生時体重には正の相関が認められた(r = 0.43, P < 0.001, 図3)。

  • 【結論】
    MCTIという概念は、調査項目の中では難産発生の予測に最も適していたものの、すべての難産を予測するのは困難。難産率は「難産の定義」と分娩の管理方法により大きく異なるため、他の牛群で同様の難産スコアをした上で、MCTIの有用性を再検討する必要がある。
  • 【感想】
    分娩前に足を触れない場合はたまにあるので、その時は評価できない。けど、ちゃんとエコーで測定できれば、子牛の過大の推定はできるって話か。難しいのは、「難産」を決めるのは子牛の腕の太さや体重だけではないってこと。確かに、「サイズが原因の難産」は頭部および両前肢の大きさや胴回りと骨盤腔の広さの問題なんだろうから。
  • Bibliography