2023/1/19 子牛の関節周囲炎の治療について


かれこれ昨年の秋の話、和牛子牛の関節周囲炎を治療し、一回の処置で治癒しました。聞かれることも多いので、参考までに写真を掲載しておきます。


生後3週間ほどの和牛子牛の関節が腫れているから治療してほしいという稟告。触診してみると左前肢手根関節の関節周囲炎で、膿瘍を形成しているようであった。

診断と治療を兼ねて、留置針を設置。白色の膿が確認できたので、生理食塩水の注入を繰り返し、回収液が透明になるまで洗浄を行った。

最後はできる限り吸引し、患部を圧迫包帯して経過観察。

翌週に包帯を除去すると、綺麗に治癒していた。


もちろん、この症例は膿瘍を切開しても治っていたでしょう。傷が残らないことと、治癒までの時間短縮が今回の治療法の良いところで、好んでやっています。

2020/10/20 腱滑膜炎


左前肢の疼痛で診療依頼。中手骨付近の屈腱が腫脹していた。削蹄しても蹄に異常は認めなかった。何日か抗生物質を投与してもあまり症状が変わらなかった。

エコー検査にて外側の屈腱周囲に著しい液体の貯留を確認した。

針で穿刺してみると、白濁した貯留駅が多く出てきた。粘稠性は低いが膿汁だろう。あまり認識して来なかったが、腱滑膜炎なのであろう。

もう一箇所に針を穿刺し、そのまま生理食塩水で洗浄してみた。

外蹄への負重を軽減するように内蹄にブロックを装着し、抗生物質の投与を続けることにした。

2018/12/13 乳牛の尿腟への対処法として人工授精前のオゾン洗浄の効果を検討した論文を読んでみた


尿腟の牛の受胎率があまり良くないっていうのは現場の感覚として持っている人は多い。しかし、論文でそれが証明されだしたのは結構最近だったりする。腟検査も嫌厭されがちなので、研究している人も少なく論文が少ない。さらに、その対処法となると手術法の検討がほとんど。前から気になっていた、牛の尿腟への対処法として人工授精前のオゾン洗浄の効果を検討した論文(10.1111/j.1439-0531.2011.01857.x)を読んでみた。


  • 【背景】
    尿腟は乳牛の受胎性を大きく下げる要因担っている。これまでに対処法は手術が報告されているが、経済的でなく、欠点も多い。
  • 【目的】
    実践的で、侵襲性が少ない尿腟の対処法を模索すること。
  • 【材料と方法】
    軽度、中度、重度の尿腟と診断した乳牛1219頭を治療法によって3群に分けた。生理食塩水による子宮と腟洗浄(group A, n = 400)、streptomycinの抗生物質による子宮と腟洗浄(group B, n = 400)、そして、オゾン水による子宮と腟洗浄(group C, n = 419)。処置は尿を除去した後に行い、処置後は排卵剤を投与してAIを実施した。
  • 【結果】
    オゾン水を使用したGroup Cが最も良い成績だった(平均受精回数、空胎日数、淘汰率)。
    The ozone treat- ment was found to be the most effective treatment modality, resulting in the shortest period of days open (95, 89 and 79 days in groups A, B and C, respectively; p < 0.05), the fewest number of inseminations until pregnancy (2.38, 1.84 and 1.63 in groups A, B and C, respectively; p < 0.05) and the smallest number of culled cows (20, 23 and 12 in groups A, B and C, respectively; p < 0.05)
  • 【結論】
    オゾン水による洗浄は尿腟の乳牛の繁殖性を改善する有効な治療法だ。

  • 尿腟の悪影響は、子宮内膜炎と精子への影響が分かっているけど、子宮内膜炎の影響のほうが強そう。発情期に尿の逆流がきっとあるのだろうなぁ。難しいのは、洗うだけでは不十分っぽいところ。オゾン水には迅速な抗菌作用に加え、局所免疫も刺激するらしいのでそこが良かったのかもと触れている。

    でも手法を見ているとオゾン水洗浄もそれなりの労力がかかる。手術での根治を目指すか、悩ましいような気もした。

    ただ単にAI時に尿へシース管が触れなければ良いかなぁっていう考えでは効果が薄いことはよくよく分かった。

    Bibliography